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言社研レクチャー/シリーズ 「本をめぐる物語」 1 国松孝二が旅した本の世界 -国松文庫の整理を終えて- 【報告】

ポスター
  • 日時:2016年12月2日(金)  15:00(14:30開場)~18:00
  • 場所:一橋大学 国立キャンパス(東)国際研究館3階 大会議室
  • 主催:一橋大学大学院言語社会研究科
  • 事前登録不要|先着40名
講演
柴田 翔(東京大学名誉教授)
国松蔵書から国松文庫へ:国立にたどりつくまでの道のり
新井 皓士(一橋大学名誉教授)
国松文庫の概括的紹介
国松 夏紀(桃山学院大学教授)
父をめぐる回想、思いつくままに
報告

2016年、一橋大学言語社会研究科は20周年という節目を迎えた。実学重視の昨今、人文学研究を取り巻く研究環境が年々厳しくなる中、言語社会研究科は「言社研レクチャー」と銘打って、連続企画によるレクチャーをスタートさせた。その記念すべき第一回目は、「国松孝二が旅した本の世界」と題して、東京大学名誉教授の国松孝二(1906-2006)が生涯にわたり蒐集し、本研究科に2002年に一括寄贈された25,000冊を超す貴重な蔵書に光をあてる。

今回は、本学名誉教授の新井皓士氏、またゲスト・スピーカーに、東京大学名誉教授の柴田翔氏、桃山学院大学教授の国松夏紀氏にそれぞれご登壇をいただいて、国松文庫の由来についてお話をいただいた。当日は晴天に恵まれ、40人近い聴衆の方々にお集まりいただき、急いで補助いすを用意するほどの盛況ぶりとなった。ご年配の方から、若手研究者まで幅広い世代の方々が3時間を超すレクチャーに熱心に耳を傾けた。

国松孝二の名前はヘッセやゲーテ等の文学作品の翻訳書や、ドイツ語学習者なら一度は手にしたことのある『独和大辞典』(小学館)ですでにご存じの方は多いはずである。しかし若い世代の研究者にとって、国松教授が膨大な数のドイツ語文献を蒐集されていらっしゃったことは案外に知られていない事実かもしれない。これらの蔵書は、一橋大学東キャンパスにある国際研究館6階の言語資料室に保管され、現在も整理が続いている。最初にこれらのコレクションがどのようにして一橋大学にたどり着いたのか、その経緯について、かつて東京大学で国松教授の助手を務められたことのある、作家でドイツ文学研究者の柴田翔氏に「国松蔵書から国松文庫へ:国立にたどりつくまでの道のり」と題してお話をいただいた。

柴田翔
柴田翔先生

柴田先生と国松蔵書とのかかわりは、幼いころに遡る。先生のお父上が鉄道会社におられた関係で、戦時中、東京から九州帝国大学に貨物列車で国松蔵書を運んだというエピソードを耳にした幼いころのご記憶からお話しいただいた。続いて柴田先生が、東京大学で国松教授の助手として勤めていらっしゃった頃、ドイツの古本屋の目録に国松教授が赤でチェックした文献の発注を任された思い出について、ユーモアを交えてご披露いただいた。そして80歳を迎えられた国松教授から、木造2階建ての自邸に隙間なく埋め尽くされた膨大な蔵書について相談を持掛けられ、蔵書の将来について思案する中、柴田先生の後輩にあたる新井先生に白羽の矢が立った経緯についてもくわしく語っていただいた。

続いて国松文庫の分類・整理を長年にわたり続けてきた本研究科の創設者でもある一橋大学名誉教授、新井皓士氏に「国松文庫の概括的紹介」と題して貴重なエピソードをご披露いただいた。新井先生は、ダンボール箱にして600箱を超す膨大な蔵書の引き取りから整理、という難事業の最前線に立って指揮をされてきた。新宿区榎町の旧国松邸の庭先には見事な桜があり、その根元に咲いていたホトトギスをつぶさないように、蔵書を運び出した当時の様子をまるで昨日のことのように懐かしそうに語られた。トラックで運ぶ作業は想像していたより大変だったようで、3日間を要したという。

新井皓士先生

さて、今回はレクチャーに合わせて、新井先生により国松文庫の中から厳選された、貴重な古典籍や20世紀に刊行された豪華複写本が国松教授の著作物・翻訳書と共にガラス展示ケースに並べられた(写真)。これらの中でも特に、18世紀に出版されたミンネザング(中世ドイツ、特に12-14世紀の騎士階級の恋愛歌)を収録した小さな書籍は、長年、蔵書整理に携わってきた新井先生にとって思い出深い一冊であったという。また新井先生によれば、整理を進める中で、中世ドイツ関連の文献のみならず、中世イタリア、アイスランドのサガに関する研究書も多数含まれていたことに、改めて国松文庫の奥深さを思い知らされたということだ。先程の柴田先生も語られていたように、国松教授は、自ら生涯をかけて蒐集してきたこれらの蔵書が手元を離れて、国立に移されることを最後まで惜しまれていた様子でいらっしゃったというが、この展示ケースに並べられたコレクションの一端を見るだけでもそのお気持ちは想像に難くない。

展示風景

最後に本好きな学者の家庭事情という観点から、父・国松孝二について、桃山学院大学教授の国松夏紀氏に「父をめぐる回想 思いつくままに」と題してお話をいただいた。父と共にお菓子を買い込んで、神田の書店街にタクシーで連れていってくれた子供の頃の思い出に始まり、東大退官の退職金をつぎ込んで購入したという、キルシュナー監修によるドイツ古典文学大系のエピソードなどを語っていただいた。さらに質疑応答では、本よりも花の咲く樹を大切に育てることに心血を注いでいた、という最晩年の父・孝二の素顔についてもたっぷりとお話しいただいた。

国松夏紀先生

最後に司会進行役を務め、本展時の準備を指揮した小泉先生の御発案により、会場の照明を一旦すべて消した後、改めて展示ケースの照明にスイッチを入れ、その暖かな琥珀色の灯りに照らし出された国松教授の蔵書に会場一同、ふたたび思いを馳せた。

尚、今回のレクチャーで初めて活用した展示ケースは、東京都世田谷区にある公益財団法人静嘉堂が運営する静嘉堂文庫美術館から、格別のご配慮によって譲り受けたものである。整備に約一年半の時間は掛かったが、ようやく活用できる段階を迎えた。また、展示準備に関して、本学の社会科学古典資料センターにもご協力いただいた。今回はレクチャーにあわせた限定公開となったが、1日も早く国松文庫が若い次世代の研究者に活用される日がやってくることを期待してやまない。

文責:大学院言語社会研究科/宮本康雄(後期博士課程)