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言社研レクチャー/シリーズ 「本をめぐる物語」 2 Kコレクションが誘う美本の世界 -河村錠一郎先生の歩みとともに- 【報告】

ポスター
  • 日時:2017年2月17日(金)  16:00(15:30開場)~18:00
  • 場所:一橋大学 国立キャンパス(東)国際研究館3階 大会議室
  • 主催:一橋大学大学院言語社会研究科
  • 事前登録不要|先着40名
講演
江藤 光紀 (筑波大学准教授)
河村錠一郎先生の歩みを振り返って――研究会と論集刊行を中心に
河村 錠一郎(一橋大学名誉教授)
Kコレクションのあれこれ――本の歴史と美本収集
報告

言語社会研究科の創設20周年を記念して始まった「言社研レクチャー」の第二弾は、「Kコレクションが誘う美本の世界 − 河村錠一郎先生の歩みとともに −」と題して、一橋大学名誉教授である河村先生が蒐集された貴重な美本の一部を展示しながら、河村錠一郎先生ご本人と、筑波大学准教授の江藤光紀先生にお話をいただいた。

当日は平日にもかかわらず40名近くの方々にお集まりいただき、追加の椅子を並べても満席になるほどの盛況ぶりだった。講演が始まる前から河村先生の「Kコレクション」を展示したケースの前には人々が集った。

講演会では初めに、江藤先生に「河村錠一郎先生の歩みを振り返って:研究会と論文刊行を中心に」という演題でお話いただいた。江藤先生は、河村先生のゼミに学生の頃参加しており、現在は筑波大学で教鞭をとりながら音楽評論の分野でも活躍されている。また、河村先生と教え子たちが中心となって出版した記念論文集『美を究め、美に遊ぶ』の編集にも携わられた。江頭先生はコンサート会場で河村先生にばったりお会いすることがよくあるという、河村先生のフットワークの軽さが伝わるエピソードでお話を始められた。それからお二人の個人的繋がりや、江藤先生が学生だった頃の逸話が語られた。

江藤光紀
江藤光紀先生

江藤先生は、美術・文学・音楽などの芸術分野を中心に扱う河村ゼミに正式に所属したことがなかったが、それでもゼミに顔を出し、先生のお宅を訪問してお話をするなかで学ぶことが多かったとおっしゃっていた。江藤先生に限ったことではなく、学生の多くが所属を超えてゼミに参加したり、先生のお宅に集いながら議論を深めたりしていた。当時の大学にはそのような自由さ、柔軟さがあった。また、学生たちが卒業して芸術に限らず様々な職業に就いてもなお、先生を慕って集まってくる。『美を究め、美に遊ぶ』を刊行した時、江藤先生はそのように育まれたゼミの文化、雰囲気をどのように本に閉じ込めるかということに苦心された、という。

会場風景

続いて河村先生から、「Kコレクションあれこれ−本の歴史と美本収集」という題目でお話いただいた。マニエリスムやビアズリー、ラファエル前派に関する著作や訳書で先生をご存知の方も多いだろうが、この日は「美本コレクター」としての先生の姿も垣間見られた。河村先生は言語社会研究科が創立にご尽力され、2008年「芸術と社会」研究会を立ち上げる際も中心となった。この研究会は、先生とゼミOBを中心に広い意味での社会の中の芸術を考える会として発足した。2014年からは言語社会研究科の小泉順也准教授のゼミ生も参加するようになり、現在も河村ゼミの関係者に限らず会員を増やし続けている。

河村錠一郎
河村錠一郎先生

河村先生のお話は、グーテンベルクの活字印刷から始まった。それから実際に展示されている先生のコレクション本を取り上げながら、古今東西の美本・挿絵について語られた。イギリス、フランス、オランダと地域を越え、また13世紀ドイツから19世紀イギリスのビアズリーに至るまで、時代や地理の制約を軽々と越えてゆく。ウォルター・クレインやギュスターヴ・ドレ、エドワード・バーン=ジョーンズなどの著名な画家による挿絵本に触れながら、どのようにそれらの作家と出会い、どのようにその本をコレクションされていったかという興味深いエピソードを織り交ぜながら語られた。当日展示された『ユリアナ聖書』(1900)を、先生が訪れたバーミンガムの教会のステンドグラスと結びつけたお話などは、江藤先生が先生のことを語る際にあげていたフットワークの軽さを証明するようなエピソードだった。

展示風景

Kコレクションはこれまでにも数々の美術展に出品されているが、この日はその内の一部が会場内に展示された。《サロメ》の挿絵の掲載によってビアズリーの名を世に知らしめた『ザ・ステューディオ』の創刊号(1893)や、ウジェーヌ・ドラクロワの挿絵による『ファウスト』(1828)、ビアズリーの死後に出版された『丘の麓で、その他 韻文・散文集』(1904)などが並んだ。講演終了後も名残惜しいのか、コレクションの美しい挿絵や装丁に見入る人の列がなかなか絶えなかった。美本蒐集のお話や河村先生のお人柄、これまでの歩みについてのお話を伺うことができ、美しい本のコレクションをご披露いただくという、またとない機会となった。

手に取って読めるコーナー

今回ご登壇いただいた江藤先生、そして貴重なコレクションの数々を惜しみなくお貸しくださった河村先生にこの場を借りて心より感謝申し上げる。

文責:大学院言語社会研究科/豊丹生彩莉(修士課程)