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シンポジウム ナビ派の現在 【報告】

ポスター
  • 日時:2017年5月15日(月)13:15~16:00
  • 場所:一橋大学 国立キャンパス(東)国際研究館3階 大会議室
  • 主催:一橋大学博物館研究会
  • 事前登録不要|先着40名
  • 問い合わせ先: 小泉順也 (一橋大学大学院言語社会研究科)
話者
東 美緒(一橋大学大学院博士後期課程)
ゴーガンとナビ派
袴田 紘代(国立西洋美術館研究員)
ナビ派と浮世絵版画
小泉 順也(一橋大学大学院准教授)
オルセー美術館におけるナビ派コレクション:収蔵の経緯と傾向の分析
報告

2015年5月15日、一橋大学国際研究館にて、「ナビ派の現在」と銘打ったシンポジウムが開催された。2017年2月4日から5月21日にかけて、三菱一号館美術館で開催された「オルセーのナビ派展:美の預言者たち―ささやきとざわめき」に合わせ、今改めてナビ派について再考するという趣旨のもと、一橋大学大学院博士課程の東美緒さんと国立西洋美術館研究員の袴田紘代氏、そして小泉先生からご発表をいただく機会となった。会場には三菱一号館美術館の方々のみならず、遠方の広島や岡山からも聴衆が駆けつけ、専門家から学部生まで30人を超す幅広い人々が集った。最終的には当初の予定よりも大幅に長い、4時間にわたる充実した催しとなった。

冒頭のイントロダクションとして、小泉先生からナビ派の現状について説明があった。ナビ派の名前を冠した展覧会は日本で数回しか行われていない事実に現れているように、日本における認知度はあまり高くはない。さらに、ヴュイヤールやゴーガンなどナビ派に関わる多くの作家研究は行われてきているものの、全体の要約が難しい現実も存在する。近年国際的な評価が高まりつつある「ナビ派」とは何か。三菱一号館美術館での展覧会並びに本シンポジウムは、それぞれの専門範囲を超えてナビ派についての考えを共有する目的を持って開催された。

最初に、言語社会研究科博士課程の東さんから「ゴーガンとナビ派」について、1889年5月に開催された「印象主義と総合主義のグループの絵画展」(通称「ヴォルピニ」展)を中心に、ナビ派へのゴーガンの影響力を改めて明らかにする試みについて発表があった。そもそもナビ派とは、ポール・セリュジエの《タリスマン》(1888年)がゴーガンの助言を受けて描かれたことが発端として語られている。しかしこの他にも、当時勢いを増していた新印象派へ対抗意識のもと、南国での新しい絵画の発表を主眼として企画された「ヴォルピニ」展もまた、ナビ派へのゴーガンの影響力の高さを、ひいては後世へのナビ派の重要性を示すものであるという。作家の手紙、証言など数多くの資料から「ヴォルピニ」展の実態を明らかにし、それぞれの作品を分析する実証的な手法は、ナビ派再考への基礎的なアプローチであった。

続いて国立西洋美術館の袴田紘代氏より「ナビ派と浮世絵版画」と題して、ナビ派研究をより“開いて”いくための事例提示という趣意のもと、ご専門のヴュイヤールと日本の浮世絵版画との関係をお話いただいた。本質を捉えるための必要最低限の線と色、絵画空間を曖昧化させる装飾と平面性など、ヴュイヤールも実際所有していたという浮世絵版画からの影響に関して、数多くの作品とともに仔細な分析が披露された。特にヴュイヤールの室内画では、壁面に切れ込みを入れたかのようなドアの表現や、そこから入ってくる人物の表現は浮世絵版画から採用された要素といえるものの、装飾性ではヴュイヤールの独自性が明らかであり、単一的なジャポニスムでは語りえない点は、大変興味深かった。また、演劇ポスターを手がけていたことへの指摘はナビ派への重要な論点であり、のちの質疑応答でも話題に上った。ヴュイヤールの事例をもとに、他の作家を包含した研究の進展が期待される。

最後に小泉先生から、フランスの国立美術館におけるナビ派作品のデータから浮かび上がってくる問題点についての紹介があった。中でも、すでに1903年の時点でヴュイヤールの作品がフランスの国家によって取得されていた事実からは、ナビ派研究をより広い視点で捉え直す可能性が提示されたのではないだろうか。また、美術館に収蔵された作品数が作家によって異なるというデータの基づく事実によって、検証が不十分な分野や作家についての課題が浮き彫りとなった。

最後に設けられた質疑応答では、三菱一号館美術館の高橋明也館長にご参加いただき、同館で開催された展覧会に関しても熱い議論が交わされた。展覧会の構成において取り入れた「かわいい」というシンプルな視点は、曖昧な部分を抱えたナビ派を理解するために、便宜的ながらも有効なアプローチであるという補足的な説明がなされた。さらに、会場からは多彩なジャンルにわたって展開されたナビ派を丁寧に見ていく必要があるとの意見や、造形的な側面に終始しがちな傾向が問題として挙げられた。日本を含む、フランス以外の国でも収蔵されているナビ派の作品についても話題は及び、各国に散らばった作品が検討可能となった現在において、包括的な実態を再考する必要性が強調された。

今回開催されたシンポジウムは、ゴーガンやヴュイヤールなどの個別作家や展覧会、ジャポニスムや他分野への視点など多くの議論と課題が共有されたものであった。包括的にナビ派を語るための第一歩として、その意義は大きいものであったといえよう。さらに、同時期に作品を実際に見られる展覧会が開催されていた意味は大きい。このシンポジウムを通して、より発展的にナビ派研究が進むことを期待してやまない。

文責:山田歩 一橋大学大学院言語社会研究科博士課程