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教員紹介

教員と研究領域/第1部門(人文総合)

大久保 友博

研究室:東キャンパス国際研究館3階
オフィスアワー:木曜日 13:15〜15:00(事前にメールで予約を取ること)
連絡先:メールアドレスはスパム対策のため画像化されています
研究概要

学生のころから一貫して翻訳研究(Translation Studies)をテーマとしています。研究領域としては新興分野ですが、もちろん翻訳という営みが太古より脈々と続いてきているように、幅広い時代とトピックを対象としています。ラテン語には“Translatio Studii”(知の転移)という言い回しがありますが、翻訳にまつわる個人の活動と社会の運動は、学知・教養を(変容させつつ)広く伝え、そのあとに続く文化の発展を準備してきました。

個人的な関心は、こうした知識や技芸を受け止めて変化させる翻訳の根本的なあり方と、とりわけルネサンス期以後の近代に至る翻訳活動です。中世を経たあとの欧州諸国が近代に至るまでのあいだ、文芸においても文化においても、無数の翻訳が存在します。たとえば古代ギリシア=ラテンの古典はそれぞれの現地語に模倣・翻案・翻訳されつつ、各国のナショナリティを確固なものとするために、その表象や言語がさまざまに活用されました。また外の世界へと進出する欧州各国は、アジアや地中海周辺の国々とも翻訳を介して知識や文化の交流を深め、その人文的やりとりのなかで、翻訳の持つ相互作用から自らをも変容させていきました。であれば、近世~近代の翻訳活動は、欧州の内と外とを相互に影響させ合うことで起こった巨大な変転の媒介として捉えなおせるでしょう。

ケーススタディとしては現在、いわゆる英国の初期近代(近世)における古典語からの翻訳を対象としつつ、時代や土地を越境する文芸の萌芽と創造を考察しています。また「長い18世紀」も射程に入れて、翻訳行為がいかに英国の近代を準備したかについて、古典翻訳以外の欧州諸語の翻訳に挑戦してきた女性の翻訳家たちによる貢献も考究しております。その際、翻訳者当人たちによって書かれた「翻訳論」というさまざまな修辞論・創作論を主な手がかりとして、翻訳に現れる自己の変容を読み解くことを旨としています。

将来的には、世界的な文化・文明の発展を準備した各時代の翻訳交流を、ひとつひとつの共有された知的テクスト運動体として見つめなおし、「翻訳」なる現象を歴史の軸として、内に外に絡み合う人文学上の一大現象の記述に挑戦したいと考えています。人類の翻訳活動そのものを解明することを目標に、学知の交流史をテーマとして包括するかたちで、世界全体の翻訳運動の照応と連環を意識しつつ、翻訳という知的営みの秘奥を解明していきたく思っています。

メッセージ

大学院の演習では、翻訳研究(Translation Studies)について、重要文献や最新研究に関する論文・記事等を、参加する学生のみなさんと一緒に輪読し、議論していきます。本研究を主専攻としない院生のみなさんの受講も歓迎します。「翻訳」という論点はそれこそあらゆる学術・芸術と関連することですので、ぜひ自身の研究・関心に「翻訳」というトピックを絡めたとき、どのような考察が可能なのか意識してみてください(翻訳に関することであれば研究テーマは自由です)。また扱う言語についても、広く受け入れたいと思います。いわゆる翻訳の言語ペアのうち、どちらか一方に日本語(古文・漢文・擬古文・各種地域語含む)か欧州諸語または古典語(古代ギリシア語・ラテン語)が含まれていれば、もうひとつの組み合わせは問いません。そして、以下の2点を大事にしたいと思います。

  1. 人文学における「翻訳」の意義を考えること
  2. 複数の言語を介して読むこと

1についてはすでに「研究概要」でも述べましたが、2に関して言えば、教員自身、近世~近代を舞台としつつ、ヨーロッパ諸国間の文化交流や、西洋諸言語と日本語のあいだをめぐる問題を扱っています。そのため、取り組む主な言語こそ英語とラテン語ではありますが、そのほかにも日々、各種古典語や西欧諸語を読む機会もたびたびあり、また10代のころから「大久保ゆう」名義で翻訳者として活動しながら、個人的な趣味として北欧諸語もたしなんだりしています。

2024年現在のEUでは24の公用語と3の手続き言語を軸としつつ、それを通訳と翻訳でリレーすることで言語の意思疎通が図られています。そのなかで、多くの国際人材は複数の言語を持ち、ここには単一言語の枠に収まらない思考があります。そしてもちろん、近世~近代のヨーロッパにも複数言語を持つ知識人たちが存在し、国家や言語を越えた活動をしていました。単なる主要語学にとどまらない多様な言語状況と触れる機会を作っていくことで、柔軟な思索環境を築いていければと思います。

学部の共通ゼミナールでは、もっと一般的なかたちで、翻訳または翻訳論の実践を行う講座を開きます。こちらでは、プロの翻訳家として活動し、また各大学で翻訳の演習授業をしてきた経験を生かして、実際に頭や手足を動かすゼミナールにしたいと考えています。「翻訳作品を論じたい」人、「翻訳行為に挑戦したい」人の意欲的な参加をお待ちしています。

(追伸:私自身の社会活動である青空文庫、あるいはデジタルアーカイヴ等にご関心のあるかたがもしいらっしゃれば、別途ご相談ください)

2024年2月