Paula Rabinowitz教授による大学院生ワークショップ・レポート
1930年代のアメリカ文学とポピュラーカルチャーにおける階級、ジェンダー等研究の第一人者であるミネソタ大学Paula Rabinowitz教授迎えて開催された本ワークショップでは、5人の学生が自身のリサーチプロジェクトを短く紹介・発表し、参加者と意見などを共有しながらRabinowitzさんを交えてディスカッションが行われました。
- 星野真志(一橋大学言語社会研究科博士課程)
<主題>
"Realism and Utopia in the 1930s British Literature"<概要>
1935年、ファシズムの台頭を危惧した共産党は党の指針を "class-against-class" から "Popular Front" へと変更した。これを機に、共産主義者と中産階級の作家は提携を促された。この影響を受け、1930年代のイギリスでは、結果的に、「人々」の「現実」を表象することがこの時代における左派文化活動者の主要な教義となった。本論文では、1930年代のイギリスにおける作家がどのように「人々」の「現実」の表象を乗り越え、より民主的なコミュニティーといったユートピア的な発想に至ったかを考察する。
- 笠根唯(一橋大学言語社会研究科博士課程)
<主題>
"In between the literary and the political: a possibility of subjects in Melville's works"<概要>
冷戦終結後、アメリカ左翼知識人によるアメリカ例外主義に関する批評が新たな Melville 受容の流れで目を引くが、そうしたアメリカ例外「主義」の批評はつき詰まるところアメリカにおけるイデオロギーと文学の共謀といった結論に行き着くものであった。そこで、本研究ではそうしたイデオロギーの枠内における Melville 作品の政治的批評の効率の良さを認識するのみならず、彼の作中の物語における主体の表象などに着眼し、他の政治的・イデオロギー的な読み方を考察していくことが目的となる。
- 白木三慶(一橋大学言語社会研究科博士課程)
<主題>
"The Cultures in the New Deal Era as Propaganda/ Resistance"<概要>
1930年代のアメリカにおいて New Deal 政策の下で行われていた FSA (Farm Security Administration) の写真が、当時の人々の情報を記録するためのみならず、Photo-Textual book などの形態を通して、当時の米国民の国民主義的ノスタルジアを醸成するべくプロパガンダ的な役割を担っていた可能性を検証する。また、同時にそのようなプロパガンダ的役割に抵抗する Photo-Textual book などの作品も検証し、New Deal 政策の時代における文化が様々な政治多義性を含んでいたことを実証する。
- 山崎亮介(一橋大学言語社会研究科博士課程)
<主題>
"Imagination of the Open Community through the Family From in Jews Without Money"<概要>
1930年代の小説にしばしば見られる抑圧された労働者階級の特徴は、読者に彼らの極端に苦しい状況を目撃させるためか、その労働者が属する貧困に喘いだ家族世帯という状況が、レンズのようにセットされている。本論文では、そうした労働者階級の家族世帯の描写の新たな役割を再考する試み、つまり、この家族世帯を労働者と貧困の境界を持たない、開かれたコミュニティー、と捉え直す試みである。本論文では Michael Gold の Jews Without Money において検証が為される。
- 森田一真(一橋大学言語社会研究科修士課程)
<主題>
"Reading Leaves as a Picture: Walt Whitman's America and Visual Arts in the mid-19th Century"<概要>
Walt Whitman の作品において、拡張論的イデオロギーと視覚的イメージにおける関係を調べることにある。彼にはアメリカの自由と平等による民主主義の唱道者としてのイメージが流布しているが、その一方で彼は原住民の絶滅や、拡張論に基づく戦争などを正当化していた残酷な一面も持ち合わせていた。そのような彼の作品における国民主義的論説を、彼の視覚や他感覚の概念(彼の芸術作品に関する主張など)から研究することが本論文の目的であり、また彼が自身の詩作においてどのように国民主義的論説を具現化すべく、視覚的イメージなどを用いたかを考察する。
文責:渡辺知陽